「使わなくなった農地を売りたい」
「近所の人に農地を貸したいけどどうすればいいの?」
「誰でも農地は買えるの?」
所有している農地を手放す、あるいはこれから農地を取得して農業をやろうと考えている方の中には、具体的にどのような手続きが必要なのか知りたいと思っている方も多いのではないのでしょうか。
本記事では、農地の所有権の移転に関して理解するのに避けては通れない農地法3条の解説から、具体的な手続き方法まで詳しく説明します。
当事務所は、上田市をはじめ長野県全域で農地法に関する書類作成及び申請代行を承っておりますので、お気軽に御相談ください。
農地を売買・貸借したい
農地の売買や貸借をする前に、農地に関するルールを定めた「農地法」について知る必要があります。
特に、本記事で扱う内容は農地法3条が関わってくるので、まずは基礎知識から理解しましょう。
勝手に農地は手放せない
日本は古くから、農地を耕して作物を作ったり、採草放牧地(牧場のこと)を利用して耕作や養畜を行ったりして、日々の生活に役立ててきました。
今でこそ大型の農業用機械で大量の作物を作ることもできますが、素人がすぐに行えるようなものではなく、一定の水準以上の作物を作るには農地を管理する人の持っている知識や経験が非常に大事になってきます。
規制なく農地の売買などが行われると、農業の生産性が低下し、国民への食糧供給が確保できない危険性が出てきます。
そこで、日本は昭和27年に「農地法」という法律を制定し、農地や採草放牧地を守るためのルールを作りました。
その中でも、農地の売買・贈与・貸借に関するルールは農地法3条に規定されており、権利移転に対する許可制を導入しています。
農地法3条とは
農地法3条について、もう少し詳しくみていきましょう。
農地法3条の条文には以下のように記載されています。
農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。
引用元:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC0000000229
つまり、農地や採草放牧地の権利を移転するためには、農業委員会の許可が必要になるということです。
権利とは、主に以下のようなものをいいます。
- 所有権(物を全面的に支配する権利)
- 永小作権(小作料を払って他人の土地で耕作や放牧ができる権利)
- 質権(債権の担保として、債務が弁済されるまで物を占有できる権利)
- 使用貸借による権利(無償で貸し借りした物を使用できる権利)
- 賃借権(賃料を払って借りたものを使用できる権利)
さまざまな権利がありややこしいですが、一般的には、売買・贈与などによる所有権の移動や貸借による賃借権の移転が事例として多いでしょう。
また、相続で土地を受け継ぐ場合や、法人の合併や分割により所有権が移転する場合には許可申請は必要ではなく、届出のみで足りるとされています。
許可要件
農業委員会の許可を得るためには、どのような要件が必要となるのでしょうか。
農地法3条の許可要件として、以下の5つが挙げられます。
- 全部効率利用要件
- 農地所有適格法人要件
- 農作業常時従事要件
- 下限面積要件
- 地域との調和要件
それぞれくわしくみていきましょう。
全部効率利用要件
全部の農地を効率よく使用し、耕作することができるかという要件のことをいいます。
大きな土地であるにもかかわらず農業を営む人が少なかったり、トラクターなどの機械が導入されていないと農地を無駄にしてもらうおそれがあります。
十分な労働力や機械が確保されているかが問われることとなります。
農地所有適格法人要件
個人間での権利の移転ではなく、法人が権利を得る際には「農地所有適格法人」でなければなりません(一般法人でも例外的に認められることもあります)。
以前は農業生産法人とも呼ばれていましたが、農地や採草放牧地を利用して農業を営むことができる法人のことを現在は農地所有適格法人といいます。
農地所有適格法人にはどの法人もなれるわけではなく要件が定められているので、法人で農地を取得したい場合は確認してみましょう。
農作業常時従事要件
忙しい会社員などのように、農作業に従事できる時間が少ない方が農地を取得すると、農業の生産性が低下してしまいます。
そのため、農作業に常時従事できる方がいるかどうかが問われます。
「常時」とは、原則年間150日以上農作業を行っていることをいいます。
150日以上は1人で満たす必要はなく、家族などと協力して従事してもよいこととなっています。
下限面積要件
いままで全く農地を所有していない方が農地を活用しようとしても、生産性が確保されるかが不明瞭となってしまうため、農地を取得するためには、最低でも5,000㎡(50a)の面積以上の農地を確保していなければなりません。
しかし、市町村によっては下限面積を変更している場所もありますので、申請する前に確認が必要となります。
※「農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律」が令和4年5月27日に公布され、下限面積要件は施行後に撤廃されることとなります。施行日は未定ですが、令和5年5月27日までに行われる予定です。
地域との調和要件
農地を守っていくためには、別の農地の所有者とも協力して効率化を図っていかなければいけません。
例えば、集団の農地だとその地域一帯で水利管理をしている場合が多いのですが、管理のためのルールを無視して農業をしては別の農地の所有者にも迷惑をかけてしまいます。
農地の権利移転をすることで、このような地域の取り組みに支障が生じないかが問われます。
農地法3条の許可に必要な手続き
ここまで、農地法3条の許可申請が必要な場合と、許可の要件についてまとめました。
ここからは、具体的な許可申請の流れを確認していきましょう。
まずは農業委員会に相談しよう
まず、自身で書類を揃える前に農業委員会へ相談してみましょう。
提出書類は役所のホームページでもダウンロードすることができますが、事案によって必要な書類が変わったり、記載に関して注意すべき内容が異なります。
場合によっては、前述した許可要件をふまえて申請しても許可が下りないケースもあるため、スムーズな申請のために農業委員会への相談は欠かさず行いましょう。
申請書類をそろえて提出する
農業委員会や役所のホームページで必要書類を集めることができたら、漏れなく記載して農業委員会へ提出しましょう。
提出書類の例としては、3条の許可申請書、該当土地の登記簿謄本・公図・案内図、土地の貸借契約書などです。
必要書類やその様式については各役所で異なるので、事前に確認をしておきましょう。
該当土地が土地改良区に入っていたり、抵当権がついていたりすると記載項目を埋めるまでに時間がかかってきますので、1か月程度は書類作成のために時間を設けるのがよいでしょう。
許可書の交付
書類提出後、農業委員会の会議で許可及び不許可の審査をし、許可された場合は許可書が交付されます。
許可がおりるまでにはおおよそ1か月程度かかります。
その間に、書類の不備が見つかったり確認事項があったりした場合には農業委員会から当事者へ連絡が行くこともあります。
困難なケースは専門家へ依頼しよう
農地法3条を細かく理解し、役所へ提出する書類を一人でまとめたり農業委員会へ何度も足を運ぶのは非常に時間がかかるでしょう。
そこでおすすめなのは、行政書士の書類作成代行サービスです。
農地に関する知識を持った行政書士なら、農業委員会とのやりとりや役所への書類提出、契約書の作成などを一括して行ってくれます。
費用はかかってしまいますが、時間のない方や確実に手続きを進めたい方は一度検討してみるのもよいでしょう。
当事務所は、上田市をはじめ長野県全域で農地法3条に関する書類や契約書の作成を承っております。
まとめ
いかがだったでしょうか。
農地の売買や賃貸をするには農地法3条にかかわる許可申請が必要です。
許可を得るためには役所への申請手続きが必要になるので、あらかじめ農業委員会に相談のうえ、必要な書類等を確認するようにしましょう。