記憶力が低下した人でも遺言は書いていいの?元病院職員の行政書士が遺言作成のタイミングを解説!

「忘れっぽくなってきたけど、いつまでに遺言を書けばいいのかな」
「親が認知症と診断されても遺言って書ける?」
「今後の終活のために遺言のタイミングについて知りたい!」
歳を重ねるにつれてだんだん気になってくるのが「記憶力の低下」です。

そして、本人やその周りにいる家族の中には将来のことを考え、遺言を書くべきなのか、そしてそもそも遺言を書ける能力があるのだろうかという悩みを抱えている方もいるのではないでしょうか。

しかし、記憶力の低下にはさまざまな原因があり、その原因によって遺言を書くタイミングが異なります。

タイミングを間違えるといざ遺言を残そうと決心したときには遺言を作成できないといった事態にもなりかねません。

そこで本記事では、病院でリハビリ職員として働いていた行政書士が医学と法律の知識を活かして認知低下に関する遺言のポイントを解説していきます。

本記事を読むことで、自分や家族がボケてきたと感じたときに、いつどのような流れで遺言を書けばいいのかを知ることができ、スムーズな終活につなげることができるようになりますので、ぜひ最後までご一読ください。

当事務所は、上田市をはじめとして長野県全域での遺言作成のアドバイスから公正証書遺言の証人まで幅広く対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

遺言について

「遺言」という言葉はよく耳にしますが、遺言を作成する前にまずは本来の目的や法的な効果について確認していきましょう。

遺言は被相続人の想いを伝える重要な文書

遺言とは、被相続人(遺産を残す方、つまり遺言を残す方)が相続人(相続を受ける方)やその他の方々に対して、何を残したいのかを意思表示することをいいます。

基本的には、主に次の3種類があります。

  • 自筆証書遺言
    本文・氏名・日付のすべてを自筆して作成する遺言のこと
  • 秘密証書遺言
    内容を秘密にしておきながら、公証人役場で遺言書の存在の証明を行ってもらう遺言のこと
  • 公正証書遺言
    遺言の信頼性を高めて確実に遺言が相続人に伝わるように、公証人に遺言を作成してもらう遺言のこと

作成内容や保管の仕方はそれぞれ少しずつ異なりますが、最終的な意思表示をすることに変わりはありません。

亡くなってからでは伝えることのできない自分自身の考えを明確に相続人などに伝えていくために、生前に遺言書を作成しておくことは非常に有効な手段となるでしょう。

相続トラブルを防ぐには遺言を残そう

遺言を残しておくメリットは、被相続人だけではなく相続人にもあります。

民法では、「法定相続分」という、遺産分割をする際の基準となる割合を定めていますが、これはあくまでも基準であり、相続人同士の話し合いで民法とは異なる割合にすることが可能です。

しかし、単純に割合を決めて分けるとしても、不動産と預貯金の分配の仕方で折り合いがつかなかったり、後になって借金が見つかったりするなど、話し合いを進めていく中でトラブルとなることが多々あります。

被相続人が亡くなる前に後世のことを考えて遺言を残していれば、遺産を明確に示すことができるだけでなく、遺産の分け方についての話し合いをスムーズに進める手助けになるでしょう。

「うちはトラブルになんかならない」と思い込み、遺産整理を何もせずにいる家庭こそ相続トラブルにつながりやすいため、遺言を残すべきかどうか検討してみましょう。

記憶力が低下した人でも遺言は書けるのか?

悲しいことに、人は年齢を重ねるごとに衰えていく生き物です。

なかでも記憶力の低下は高齢者によくある認知低下の症状のひとつであり、その程度は人それぞれ違います。

衰えてきた段階で遺言を残しておきたいと考える方も少なくありませんが、そもそも記憶力が低下した人が遺言を書いても効力は発生するのでしょうか。

遺言を書けるかどうかは「遺言能力」の有無で決まる

民法963条では、「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」と明記されています。

遺言を残すうえで有していなければならない能力を「遺言能力」といいますが、具体的にどのような能力が必要なのかについては、以下のような内容を総合的に判断していきます。

  • 遺言を正確に書けるか(内容が不自然ではないか)
  • 年齢が15歳に達しているか
  • 心身の状況やその経過はどうか
  • 病気の発症時と遺言時の時間的経過はどうか
  • 遺言時の前後の言動はどうだったか
  • 日頃、遺言についてどのような発言をしていたか
  • 遺言者と受遺者がどのような関係であったか
  • 以前遺言を作成していたか
  • 前の遺言を変えた経緯・事情

要するに、実務上の判断要素を考慮していくわけですが、特に病気による記憶力の低下などに代表される心身の状況の変化は重要視される傾向にあります。

どれくらいボケたら遺言は書けない?

記憶力の低下といっても、実際にどの程度低下したら遺言能力がないと判断されてしまうのでしょうか。

遺言能力の有無を争う裁判では、「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」という評価を判断材料の一つとしているケースがあります。

長谷川式簡易知能評価スケールは認知症のスクリーニング検査として病院や施設で実施されることの多い評価で、被検者に簡単な質問に答えてもらい30点満点で点数が低いほど認知症の疑いが高いと判断されます。

基本的に、20点以上であれば遺言能力があると判断される可能性が高く、逆に10点以下であれば遺言能力がないと判断される可能性が高いようです。

11点~19点の場合は個別のケースにより結果が分かれることが多いです。

前述したように、認知低下はあくまでも判断材料のひとつであり、長谷川式簡易知能評価スケールのみで遺言能力を判断することは困難ですが、自宅でもできる簡単な評価なので試してみてもいいかもしれません。

一般社団法人日本老年医学会|長谷川式簡易知能評価スケール

成年後見人が選任されている場合は遺言の作成方法に注意

遺言者が精神上の障害により、法律行為を判断できるだけの能力がなくなってしまったために「成年被後見人」となっている場合は、遺言の作成方法が異なります。

具体的には、事理弁識能力が一時的に回復した状態になった場合に医師2人以上の立ち合いが必要となります。

法律行為の判断ができるようになったからといって勝手に遺言を作成しても、いざ相続の時に無効となってしまいますので注意しましょう。

記憶力が低下した人の遺言のタイミングは原因別に考えよう

では、記憶力が低下した場合にはすぐに遺言を書いたほうがいいかというと、実はそうではありません。

遺言作成をいつ行えばよいのかについては、記憶低下の原因によって変わってきます。

ここからは、具体的な原因と原因別の遺言作成のタイミングについて確認していきましょう。

「認知症」なのか「高次脳機能障害」なのか

記憶低下というと、「認知症」を思い浮かべる人が多いと思いますが、記憶低下につながりやすい症状として「高次脳機能障害」というものがあることをご存知でしょうか。

高次脳機能障害とは、脳梗塞や脳出血などにより脳が損傷した場合に現れる知的な能力の障害のことを指します。

計算ができなくなったり、怒りっぽくなったりするなど損傷を受けた部位によって症状はさまざまですが、臨床現場でよくみられる症状に記憶低下があるのです。

認知症は基本的には進行性で症状が年々悪化していくものですが、高次脳機能障害はリハビリによって症状が回復することが報告されています。

まずは記憶低下が認知症なのか、そうではないのかを確認しましょう。

認知症にもさまざまな種類がある

認知症にはさまざまな種類があり、それぞれ特徴や進行のスピードが異なってきます。

以下の表で確認してみましょう。

出典:福田内科クリニック「認知症について」

アルツハイマー型認知症や前頭側頭葉変性症などは比較的進行がゆっくりですが、血管性認知症は急に発症することがあることが特徴的です。

また、レビー小体型認知症においては調子の良し悪しが日によって異なることもあります。

【原因別・遺言作成タイミング】認知症の場合

認知症と診断された場合は、基本的に徐々に進行していくことがほとんどなので、遺言を残したい場合には遺言能力があるうちになるべく早く作成に取り掛かるのがベストです。

遺言を作成するにも、今残っている財産を正確に把握したり、遺言に記載する内容を考えていると作成し終えるまでに相当な時間を要します。

レビー小体型認知症のように調子の悪い時を避ける場合は別として、今は大丈夫と思っていても、日常生活に支障をきたす前に作成することで遺言が無効になることを防ぐことができるでしょう。

【原因別・遺言作成タイミング】高次脳機能障害の場合

高次脳機能障害と診断された場合には、すぐに遺言を書くというよりも、まずはリハビリに専念するとよいでしょう。

高次脳機能障害はリハビリをすることで予後が良くなるとの研究があり、回復期病院では発症から180日までは入院してリハビリを受けることができます。

リハビリをして、長谷川式簡易知能評価スケールの点数が上昇するケースも多々ありますので、症状が固定された後に遺言能力があると認められる状態になってから遺言を作成するとよいかもしれません。

遺言に困ったら病気の知識にも詳しい行政書士へ相談しよう

ここまで記憶力が低下した場合の遺言作成について「認知症」と「高次脳機能障害」に焦点を当てて述べていきましたが、実は認知の低下にはほかにもさまざまな原因が考えられます。

また、その時々の生活状況や合併症、年齢などによって同じ原因でも個々に認知機能の差が出てくるので注意が必要です。

また、遺言に関しても作成にあたって細かなルールが決まっていることを知らずに書いてしまうと無効になってしまう場合があります。

特に記憶力の低下のある方が遺言を書くには周りのサポートも必要不可欠となってくるでしょう。

もし身内に遺言について詳しい方がいなければ、行政書士に作成サポートの依頼をすることも可能です。

特に法律の知識だけでなく病気についても詳しい行政書士であれば、遺言作成のためのアドバイスをより細かく伝えてくれるのでおすすめです。

当事務所は、上田市をはじめとして長野県全域での遺言作成や公正証書遺言の証人など多数の遺言関連の依頼を承っております。

まとめ

いかがだったでしょうか。

歳をとると「忘れっぽくなってきた」と感じることもありますが、認知症や高次脳機能障害など、実は原因がさまざまです。

原因によって認知低下が進行する場合や、反対に回復したり一時的によくなったりする場合もありますので、原因別に遺言のタイミングは考えていく必要があります。

遺言は生前の意思を相続人に公的に伝えることができる唯一の方法ですので、ぜひ本記事を参考にして遺言の作成のタイミングを間違えないようにしましょう。

少しでも気になることがあれば、
お気軽にご相談ください。

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