「事実婚でもパートナーに遺産を残すことは可能?」
「事実婚における遺産の承継で注意しておくべきことは何?」
「生前に何か準備しておけることはある?」
事実婚とは、パートナー関係にある2人が婚姻の意思を持ち、共同生活を送っている場合で、役所に婚姻届を出していない婚姻形態を指します。
現在の相続制度においては、事実婚の場合、法律婚と同じように相続権が認められているわけではありませんが、一定の方法をとることで、事実婚であっても遺産を承継できる可能性があるのです。
当記事では、事実婚のパートナーがいる場合、相続や遺言においてはどのようなことに気をつけておくと良いのかについて、これまで多くの相続手続きを手がけてきた行政書士が詳しくご説明したいと思います。
当事務所では、上田市をはじめとして長野県全域において、建設業許可申請、農地転用、遺言相続、会社設立などの各種手続に関し、書類の作成代行や作成代理および官公署への提出代理などを幅広く行っています。
ご相談や書類作成のみの場合は全国対応もしますのでお気軽にご連絡ください。
相続における事実婚のパートナーの現状

事実婚とはどのような場合をいうのか
婚姻意思と共同生活を送っている実態がありながらも、婚姻届を提出していない関係を「事実婚」と呼びます。
日本は法律婚主義をとっているため、婚姻届を提出していないと、法律上の夫婦としては認められないといった現状があります。
そのため、法律婚には認められている事柄が、事実婚においては認められないこともあるのです。
具体的には、夫婦が同じ氏を名乗れない、パートナー間に子どもが生まれても嫡出子になれない、そして、パートナーの一方が死亡しても、相続が認められないといったことなどが挙げられます。
しかし、社会的には夫婦としての実態があり、共同生活を送りながらお互いを支えあっている点で、事実婚に何らの保護も与えないのは妥当でないと、昨今では考えられているのです。
相続においても、事実婚のパートナーに対する保護的な制度がいくつかありますので、以下ではそれらについて説明していきたいと思います。
相続における事実婚と法律婚の相違点
まず、相続において事実婚と法律婚ではどのような違いがあるのかを見ていきましょう。
①事実婚のパートナーは法定相続人にならない
法律婚の場合、配偶者は法定相続人として自動的に相続人になりますが、事実婚の場合は法定相続人になることはありません。
②事実婚のパートナーには、遺留分がない
遺留分とは、遺言の内容に関わらず相続できる最低限の遺産取得分を指します。
法律婚の場合、配偶者には遺産の2分の1に遺留分が認められているのに対して、事実婚の場合は遺留分が認められていないといった違いがあります。
③事実婚のパートナーは、相続税における配偶者控除を受けられない
遺産を相続すると相続税が課税されますが、法律婚の場合は1億6,000万円を上限に配偶者控除を受けることが可能です。
一方で、事実婚の場合は配偶者控除が認められないため、相続分全体に対して課税されることに注意しましょう。
遺産承継において事実婚のパートナーに認められていること
亡くなった方には生前において身近な親族がおらず、最も近くで被相続人と助け合いながら生活していたのがパートナーであったという場合もあるでしょう。
法定相続人が誰もいない場合には、事実婚のパートナーが特別縁故者という立場で相続財産の請求をすることが可能となっています。
ただし、特別縁故者としての権利は法律上当然に認められるものではなく、家庭裁判所への申し立てが必要な点に注意が必要です。
事実婚のパートナーによる遺産の承継

相続人が不存在であることが必要
事実婚のパートナーが家庭裁判所に相続財産を請求するにあたっては、法定相続人が存在しないことが前提となりますが、相続人の不存在を認めてもらうためには、一定の手続きが必要です。
以下の手順を踏むことで、相続人が存在しないことを確定させます。
①相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申立てる
②相続財産清算人を選任した旨を官報に公告する(2カ月)
③債権者・受遺者に対する請求申出を公告(2カ月以上)
④相続人捜索の公告(6カ月以上)
⑤相続人不存在の確定
相続人の不存在が確定した際には、3カ月以内に「特別縁故者の財産処分の申し立て」を行うようになります。
特別縁故者に該当するかどうか
事実婚のパートナーが遺産を承継するためには、亡くなった方との関係において「特別縁故者」であることが認められる必要もあります。
民法958条の2は、特別縁故者について次のように規定しています。
①被相続人と生計を同じくしていた者
②被相続人の療養看護に努めた者
③その他被相続人と特別の縁故があった者
事実婚におけるパートナーは、①被相続人と生計を同じくしていた者に該当します。
亡くなった方と生計同一であったといえるためには、同一住所で長期間住居を共にしていたことや、日常生活にかかる費用を分担していたことなどが必要です。
賃借権の承継は相続人がいても認められる場合がある
亡くなったパートナーの名義で借家契約を結び、その借家で共に生活をしていた場合、相続人がいなければ、同居していた方が建物の賃借人の権利を承継できるとされています。(借地借家法36条)
しかし、過去の判例によると、相続人がいる場合でも、内縁の妻に賃借権の承継を認めたケースもあるようです。(最高裁・昭和42年4月28日判決)
この場合、パートナーの建物の使用状況や必要度などの事情が考慮の対象となってきます。
生前贈与や遺言の作成でより安心

生前贈与
通常、事実婚のパートナーには相続権がないことを理解した上で、将来的な遺産承継の方法を生前から考えておくことも有効だといえます。
たとえば「生前贈与」といった方法であれば、贈与者と受贈者の関係に関わらず財産を引き渡すことが可能です。
ただし、年間の贈与額が110万円を超える場合には、受贈者は贈与税の申告が必要となる点に注意が必要です。
遺言を作成しておく
生前贈与以外にも、パートナーに遺産を承継してもらいたいという意思を、「遺言」で表明しておくといった方法もあります。
ただ、法定相続人がいる場合は遺留分についても考慮に入れなければいけません。
残されたパートナーが後々円満に遺産を承継できるよう、事前にパートナー間でよく話し合いを深めておくことも大切でしょう。
事実婚であることの証明があるとなお良い
相続に限らず、年金や生命保険金の手続きなどもパートナーに託していこうとお考えの場合もあるでしょう。
その場合、お2人が生計同一であったことを裏付ける資料を準備しておくことをおすすめします。
たとえば、居住建物の賃貸借契約書、お2人が同居していたことが分かる郵送物などを用意しておくと良いです。
また、お住まいの市区町村役場に届け出ることで、婚姻届を提出せずとも、住民票の続柄を「夫(未届)」「妻(未届)」と記載してもらえる場合があるので、検討してみるのも良いでしょう。
相続に関する疑問なら行政書士にお任せください

今回は、事実婚の場合における遺産の承継についてご説明しました。
相続と一口に言っても、ご家庭ごとに様々なご事情があると思います。
「わが家の場合はどうなのだろう?」と疑問に思われることもあるでしょう。
そんなときは、相続手続きの専門家である行政書士に、ぜひご相談ください。
当事務所はこれまでに、上田市をはじめとする長野県全域において、遺言書作成や遺産分割などの各種相続手続きに対応してまいりました。
相談や書類作成のサポートのみの場合は全国対応しますので、お困りの際は当事務所へお気軽にご相談ください。
まとめ

家族のあり方が多様化している今、相続に関する疑問も複雑化しています。
そんな疑問に寄り添いながら、解決に導くお手伝いをするのが私たち行政書士の役目です。
相続や遺言に関してお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。